ジェルジュ・クルターグ作曲『言葉とは何』について

ジェルジュ・クルターグ(György Kurtág)は現在93歳のハンガリーの作曲家です。

今回は彼の作曲した『言葉とは何』という曲について書いていきたいと思います。

 

まず彼がこの曲を書くに至った経緯は2つあります。

  1. アイルランド出身でフランスの劇作家・小説家・詩人・ノーベル賞作家であり、晩年は失語症に苦しんだサミュエル・ベケット(Samuel Beckett,1906-1989年)の最後の文章『What is the word』(原語は英語、仏語)をベケットが亡くなった年にシクローシュ・イシュトバーン(Siklós István )のハンガリー語訳で読んだ事。
  2. 異色のシャンソン歌手としてラジオなどで活躍していたが、大きな交通事故に合い話す能力を失ってしまった、モニョーク・イルディコー(Monyók Ildikó )に出会ったこと(彼女は7年という時間をかけ、努力し、数少ない言葉を使い話せるようになった)

 

この作品は2種類のバージョンがあり、まず1990年3月に作曲されたバージョンは朗唱とピアノのみの編成(初演の朗唱はもちろんモニョーク・イルディコーである)それを発展させた形として1991年7月に作曲されたバージョンでは朗唱と声楽・室内アンサンブルの大規模な編成であり、テキストも朗唱はハンガリー語、声楽アンサンブルは英語となっている。このバージョンはその年の秋にウィーンでクラウディオ・アバド(Claudio Abbado)の指揮で初演された。ちなみに日本初演は1995年11月5日福島で、朗唱:モニョーク・イルディコー、ピアノ:キラーイ・チャバの2人によって演奏された。(モニョーク・イルディコー氏とは会ったことがないですが、1年以上前にキラーイ・チャバ氏とは直接お会いすることもでき、また、即興とピアノのレッスンを受講するチャンスをいただくことができ、本当に良い経験になりました。)

 

この作品は失語症を題材にしているということもあり、朗唱者は歌うというよりも、むしろ話す事のできない苦しみを表現するかのように吃り、時に叫ぶように曲が進んでいく。またクルターグ作品で重要な《沈黙》の微妙なニュアンスも、クルターグ特有の休符で書き表されてる。さらに言うなれば、クルターグは演奏者の演奏場所も決めており、彼が追及していた空間音楽から得られる独特の音色、音響を聴くことができる。

 

クルターグは、混沌とした現代の私たちにこの作品を通して『言葉とは何?』というメッセージを突き付けているのである。

(URL貼っておくので是非聴いて下さい)https://t.co/7tn5duRR6b

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(写真はジェルジュ・クルターグ氏)